中毒医療の発展と中毒事故・事件の防止に貢献することを目的としています

MENU

強制利尿

強制利尿

[要約]

 強制利尿 (forced diuresis)は、中毒起因物質の排泄を促進することを目的として、尿量を増加させる治療法である。急性中毒の標準的な治療法の一つとして広く実施されており、時間尿量250~500mlを目標として輸液負荷と利尿薬投与を行うことが多い。さらに、尿中への排泄を促進するために尿のアルカリ化や酸性化を行う場合がある。しかし、理論的に有効性が期待できる物質は非常に少なく、臨床的効果が示された物質はさらにごく一部(バルビタール、サリチル酸など)である。そのため、多くの中毒例においては、脱水の補正・防止と腎血流量維持以上の効果があるか疑問視されている。なお、尿の酸性化は、従来は適応があるとされてきた物質(アンフェタミン、キニンなど)を含めて、現在は推奨されなくなっている。脱水、意識障害、呼吸抑制、痙攣などに対する対策が適切になされるならば、強制利尿を実施することによる臨床的有用性は非常に乏しいと考えられる。

[原理・有効性]

中毒起因物質の腎からの排泄を促進するには、1)腎糸球体からの濾過量を増やす、2)近位尿細管での分泌を増やす、3)遠位尿細管での再吸収を抑制するという機序が考えられる。しかし、脱水や血圧低下のために濾過量が減少している場合の輸液負荷は有効であるが、通常は濾過量を正常域以上に増加させることは困難である。また、近位尿細管からの分泌を人為的に増加させることもできない。そのため、強制利尿の効果としては、尿量が増加して濃度勾配が減少することによって遠位尿細管での再吸収が抑制され、尿中排泄が増加するという機序が最も大きい。
この機序を考慮すると、強制利尿のよい適応となる物質の特徴は、1)体内で代謝を受けない未変化体として、あるいは活性のある代謝産物として、腎から尿中へ多く排泄される、2)分布容量が小さい(組織に分布せずに、主として血管内に存在する)、3)蛋白結合率が低い、4)尿中のpHを調整することによりイオントラッピングを生じさせることが可能な解離恒数(pKa)を有する、などがあげられる。
物質は溶液中ではイオンあるいは非イオンとして存在し、尿細管から再吸収される物質は非イオンに限られる。したがって、イオン化率の高い状態ほど尿細管での再吸収が抑制(イオントラッピング)されやすい。イオン化率は物質のpKaと尿細管中のpHにより決定される。弱酸の物質では尿をアルカリ化するほど、またアルカリ性の物質では尿を酸性化するほどイオン化率は高くなる。

[適応]

すべての急性中毒症例に対して、その程度と意図はさまざまであるが、何らかの強制利尿を実施しているのが現状である。しかし、適切な体液管理と循環管理がなされている限り、強制利尿の適応となる物質は限られている-サリチル酸とフェノバルビタール以外の物質に関する安全性と有効性は確立されてい
ない。
1)中性利尿:イソニアジド、水溶性バリウム塩、きのこ類(サイクロペプタイド)、メプロバメート、など(なお、アルコール類、有機リン、パラコートに関しては十分な根拠は確立されていない)
2)酸性利尿:従来はカーバメイト剤、アンフェタミン、キニン、キニジン誘導体などが適応であるとされてきた。しかし、横紋筋融解や痙攣、筋の活動亢進を生じる危険性の高い物質による中毒患者においては、酸性利尿を行うことに伴う危険性が問題視されている。そのため、アンフェタミン、フェンサイクリジン、フェンフルラミン、キニン、ストリキニン、イソニアジドによる中毒を含めて、酸性利尿は推奨されなくなっている。
3)アルカリ利尿:バルビタール(血中濃度10mg/dl以上)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、メコプロップ、フェノバルビタール(血中濃度10mg/dl以上)、サリチル酸(血中濃度50mg/dl以上)、など(なお、ベンゾジアゼピン剤、アニリン剤、ピラゾリジン剤、ブロム剤に関しては十分な根拠は確立されていない)
(注) バルビタール(pKa 7.7)、フェノバール(pKa 7.2)については、尿をアルカリ化せずに利尿を行っても排泄の促進にはつながらない。一方、サリチル酸(pKa 3.0)では尿pHが5.0程度でも十分な再吸収の抑制が期待される。

[禁忌]

 腎不全(乏尿、無尿)、肺水腫、心不全、重篤な電解質異常のある場合など

[実施方法]

1)静脈路(末梢および中心静脈)の確保と膀胱カテーテルの留置を行う。
2)必要に応じて心電図、酸素飽和度、血圧、中心静脈圧、体温などのモニターと血液ガス、血糖・尿糖、電解質(血清、尿)、浸透圧(血清、尿)、pH(尿)、胸部X線、体重測定などの検査を行う。
3)循環動態が不安定な場合や利尿が得られない場合はSwan-Ganzカテーテルや心エコーによる心機能の評価を行う。
4)十分な補液がなされており、腎機能障害がないことを確認した上で輸液投与を開始する。
5)輸液製剤:乳酸リンゲル液あるいは生理食塩水と5%ブドウ糖液の等量配合液を用いる。なお、電解質のチェックを定期的に行い、電解質の補正を行う。特に低カリウム血症をきたしやすいので、血清カリウム値4mEq/lを目標としてカリウムの補給を行う。カリウム(KCl)は輸液製剤内に混入するかポンプで微量持続注入し、1時間あたり20mEqを超えないようにする。乏尿や無尿の患者にはカリウムを投与しない。
6)投与量:500mlから1000mlを30分から1時間で負荷し、以後は250ml/時から500ml/時の輸液を継続する。
7)尿量:時間尿量として250mlから500mlを目標とする。
8)利尿薬:輸液負荷だけで目標とする利尿の得られない場合は利尿薬(フロセミド、マニトール)やドパミンを用いる。利尿薬を用いる場合には、時間毎の水分バランスと尿pHをモニターする。
9)投与期間:原則として12時間ないし24時間経過した時点で、強制利尿の効果と適応を再評価する。
10)尿のアルカリ化:尿pH値7.5以上を目標として、重炭酸ナトリウム液20mlから40ml(重炭酸イオン17-33mEq)の反復静注または点滴静注を行う。ただし、特に人工呼吸器などで補助換気を受けている患者では、重篤なアルカローシスをきたさないように注意する。
11)尿の酸性化:原則として行わない。行う場合は5モル塩化アンモニウム20mlを生理食塩水500mlに希釈して点滴静注する。

[合併症]

 肺水腫、脳浮腫、腎不全、心不全、SIADH、電解質異常(高ナトリウム血症、低カリウム血症、低ナトリウム血症など)、高血糖(糖液使用の場合)、低体温など

TEL 03-3384-8123

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
PAGETOP
Copyright © 一般社団法人 日本中毒学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.