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血液浄化法

血液浄化法

国立国際医療センター救急部
冨岡譲二

【要約】

 急性中毒患者のうち、一般的な治療法を行っても症状が進行性に増悪する場合や、肝不全・腎不全などで通常の代謝経路の機能が低下ないしは廃絶している場合、起因物質の代謝産物が、起因物質と同等かそれ以上の毒性を持つ場合、遅発性の毒性を発揮する場合などは、原因物質除去のために血液浄化法の適応となる場合がある。血液浄化法には、血液透析、血液吸着、持続的血液濾過透析、血漿交換などの方法があり、中毒起因物質の分子量、蛋白結合率などによって方法が選択される。
しかし、現在のところ、どの血液浄化法も、急性中毒患者の予後を改善するという明確なエビデンスはなく、確立された治療というより、実験的治療、あるいは、何らかの理由で他の療法が施行できないか、施行しても効果がないときの代替的治療としての意味合いが大きい。
血液浄化法の合併症としては、抗凝固剤による出血性の合併症、循環虚脱などが起こりうる。

【原理・有効性】

1)急性中毒に対する血液浄化法の種類
(1)血液透析 (Hemodialysis: HD)
半透膜(透析膜)を介し、溶質が濃度の高い側から低い側に移動する現象(拡散)を用いて、血液中の物質を透析液に移動させ、排出する手技である。また、透析膜の内外の圧格差によって、水分を移動させる(限外濾過)こともできる。
除去できるのは、透析膜を通過する物質のみのため、透析を急性中毒の治療として用いる場合、中毒起因物質が以下の条件を満たしていないと、効果は期待できない。
a)分子量が比較的小さい(分子量2000以下、あるいは500ダルトン以下)
b)血漿蛋白結合率が小さい
c)分布容積(Vd)が比較的小さい
d)脂溶性が低い
e)水溶性が高い
f)透析膜を容易に通過する
g)血漿濃度が高い
もし起因物質の血漿中での遊離度が測定できるのであれば、血漿中の遊離薬剤の%を分布容積で割った値で、透析での除去率が推察可能で
[薬剤の遊離度(%)]÷[Vd(L/Kg)]>80 ・・・・20-50%が透析で除去可能
[薬剤の遊離度(%)]÷[Vd(L/Kg)]<20 ・・・・透析で除去できるのは10%以下
とされる。
一方、血液透析は、上述したように、限外濾過で体液量の調整ができるうえに、電解質の補正、酸塩基平衡の調節、体温の補正も可能なため、腎不全合併例や、低体温、高体温合併例における全身管理には有利である。

(2)腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)
腹膜透析は、一定時間(1-2時間)おきに腹腔内に透析液を注入-排出を繰り返すもので、腹膜を半透膜として用い、血液透析と同じく、拡散の原理で溶質を除去できるが、効率としては血液透析の10-20%にすぎないため、現在では急性中毒の治療法としてはほとんど用いられていない。しかし、器具を要しないこと、血行動態への影響が小さいことから、僻地・離島などでの緊急処置や、血行動態が不安定な場合のオプションとしては考慮されてもいい。

(3)血液潅流・血液吸着(Hemoperfusion: HP, Hemoabsorption:HA)
血液を、活性炭などの吸着物質のカラムに潅流させ、血中の中毒起因物質を吸着させる方法で、血液そのものを吸着物質カラムに通す方法の他、血漿を分離して吸着物質カラムを通す方法(血漿吸着)もある。また、「血液吸着」という用語も、血液潅流とほぼ同じ意味で用いられている。わが国で最も多く用いられているのは、活性炭による直接血液潅流(Direct Hemopefusion:DHP)である。
血液潅流では、血液が直接活性炭に接するため、除去効率は中毒起因物質の分子量、水溶性、蛋白結合率などにほとんど左右されない。また、濃度勾配を利用しないため、血中濃度が低い場合でも中毒起因物質の除去が可能である。

(4)血液濾過・持続的血液濾過・持続的血液濾過透析(Hemofiltration:HF, Contenious Hemofiltration:CHF, Continuous Hemodiafiltration:CHDF)
血液濾過とは、血液を濾過性能の高い膜(濾過膜)を通して濾過排出し、不足した水分、電解質を補う方法で、除去できる物質は、使用する膜の細孔径によって異なるが、最大分子量40000程度の物質まで除去できるとされている。
更に、この血液濾過を持続的に行う方法がCHFである。また、CHFのカラムのハウジング内に、透析液を血液と対向流になるように潅流させ、透析の要素も持たせたのがCHDFで、HDで除去される低分子量物質から、HFで除去される中?高分子量物質までを除去可能である。なお、わが国ではCHDFが好んで用いられるが、欧米では持続的にHDを行うCHD(CAVHD,CVVHD)も行われている。CHDで除去できる物質はHDと同様である。
CHF,CHDFは、間欠的な血液濾過、血液透析に比べ、体外循環する血流量、濾過液・透析液の流量が低いため、中毒起因物質の除去効率は劣る。しかし、心血管系に与える影響が小さいため、低血圧の患者にも使用しやすく、また、持続的に血液浄化が行えるため、間欠的血液浄化でみられるような、血液浄 化後の中毒起因物質の血中濃度再上昇(リバウンド:組織から遊離した中毒起因物質が再び血中に出現するためにおこると考えられている)が起こりにくい。

(5)血漿交換、交換輸血(Plsma Exchange:PE, Plasmapheresis, Exchange Transfusion)
血漿交換とは、血漿分離膜、あるいは遠心分離法を用いて血漿を分離、破棄し、これに見合った分の新鮮凍結血漿またはアルブミンを補う方法である。他の血液浄化法で除去できない高分子物質や蛋白結合率の高い中毒起因物質の除去が可能であるが、除去効率はあまり高くない。肝不全合併例では、肝補助も期待して行われる場合もある。しかし、大量の血漿製剤を必要とするため、コストが高く、また血液を介する感染の可能性もある。
交換輸血は全血を交換するもので、中毒起因物質のうち、溶血を起こす可能性のあるものや、重症メトヘモグロビン血症などに試みられることがあるが、血漿交換より更に適応は狭い。

2)急性中毒に対する血液浄化法の限界
血液浄化法は、上記のように、理論的には中毒起因物質の除去には有効なはずであるが、現在のところ、どの方法も、急性中毒患者の予後を改善したり、罹病期間を短縮したという明確なエビデンスは皆無といっていい。この背景には、他の急性中毒に対する治療法同様、血液浄化法がRCTなどの研究になじまないという問題もあるが、その他に、血液浄化法が以下のような限界を抱えていることも大きいと考えられている。

(1)分布容積・蛋白結合率の問題
分布容積(Vd)は、体内総薬物量を初期血漿中濃度で除した値である。Vdが大きいほど、より大量の中毒起因物質が血漿中から組織に移行することを意味し、血液浄化法で血中濃度を下げても、組織に移行した物質は除去しがたいし、上述した血液浄化後の中毒起因物質の血中濃度再上昇が起こりうる。
わが国の急性中毒の原因物質のうちで比較的頻度が高い、向精神病薬の多くはVdが大きく、ほとんどの場合、血液浄化法は効果がないと思われる。また、同じく中毒起因物質として頻度が多いベンゾジアゼピン系薬剤も、蛋白結合率が高く、血液浄化法の効果は低い。

(2)内因性代謝との兼ね合い
ほとんどすべての中毒起因物質は、体内で代謝・排泄されるが、物質によっては、このような内因性クリアランスが、血液浄化法のクリアランスより高い。たとえばアセトアミノフェンは、内因性のクリアランスが、血液透析、血液潅流のクリアランスの三倍以上ある。このような場合、血液浄化法を行っても行わなくても、薬物代謝のスピードは変わらないし、むしろ、体外循環による血圧低下などで、腎血流や肝血流が低下すると、中毒起因物質の血中からの消失を遅らせる可能性すらある。

(3)「ヒットエンドラン」型の臓器障害
ある種の中毒起因物質(たとえばパラコート)の毒性は、その最大濃度や持続時間で予後が決まるのではなく、一度組織中の濃度が一定以上になれば、体内に吸収されてからごく短時間で予後が決まってしまう。このような中毒物質は、いわゆる「ヒットエンドラン」型と称されており、一旦体内に吸収されてから血中濃度を下げる意味はない。

(4)治療のために投与された薬剤の除去
上述のごとく、ある物質が血液浄化法で除去されるかどうかは、その物質の分子量、蛋白結合率などで機械的に決まり、ある特定の物質のみを除去する方法はない。このため、血液浄化法によって、中毒起因物質だけでなく、その治療のために投与された薬剤(たとえば葉酸、エタノールなど)が除去されたり、誤嚥性肺炎に対して投与された抗生物質が除去され、予後を悪化させる可能性がある。

(5)吸収と排泄のバランス
3環系抗うつ剤、有機リン系農薬などの物質は、腸管運動を抑制し、消化管洗浄でもすべての薬剤を除去できるわけではない。このような物質の場合、原因薬剤は長期にわたって消化管から吸収され続け、血液浄化では、最大でも吸収された量の1%前後の薬剤しか除去できないとされている。

【適応】

 上記のような限界があるため、急性中毒に対する血液浄化の適応は以下の場合に限られる。
1)他の標準治療を含む十分な治療を行ったにもかかわらず、全身状態が進行性に悪化する場合
2)呼吸抑制、低体温、低血圧など、脳幹機能の低下がみられる場合
3)昏睡が遷延し、肺炎・敗血症など昏睡に合併した症状がみられるとき
4)起因薬剤の代謝に影響を与えるような重篤な臓器障害が存在する場合。この場合、基礎疾患としてこのような臓器障害があったのか、中毒原因物質によって起こったかを問わない。例:腎不全、肝不全、呼吸不全
5)中毒起因物質の代謝産物が、起因物質と同等あるいはそれ以上の毒性を持つ場合 例:エチレングリコール
6)起因物質が遅発性の障害を起こす可能性のある場合
しかも、上記の条件を満たした上で、起因薬物あるは代謝産物が、内因性クリアランスより効率よく血液浄化法で除去できる場合でないと、血液浄化法の効果は期待できない。
ただし、上述したように、急性中毒に臓器障害を合併した例では、必ずしも中毒起因物質の除去を第一義とせず、むしろ、水分量調節、酸塩基平衡の改善、体温管理、肝機能補助などを主目的に体外循環を行うことはありうる。

【禁忌】

 血液浄化法の絶対的禁忌は存在しないが、腹膜透析を除くすべての血液浄化法は体外循環を必要とするため、以下の場合は相対的禁忌となりうる。
1)脳出血、高度の肺出血、消化管出血、多発外傷合併例などで、生命を脅かしうる出血症状や、止血困難な部位の出血がある場合。ただしこの場合、抗凝固剤として、ヘパリンの代わりにメシル酸ナファモスタットなどを用いたり、返血側でプロタミンを用いてヘパリンを中和するなどの対策はある。
2)血行動態が不安定な場合。この場合も、回路のプライミングに血漿製剤、血液を用いる、間欠的でなく持続的血液浄化法を用いる、カテコラミンを併用するなどの対策を取りうる。また、致死的な不整脈合併例などでは、PCPSの併用も考慮されるべきである。

【方法】

1)実施の前にインフォームド・コンセントを行う。
正常な判断ができると思われる患者には、説明して、同意を得、その旨をカルテに記載する。ただし、意識障害や当事者能力のない心神喪失状態にある時は、その対象とはならない。また、自殺企図者は一過性の心神喪失と見なし、承諾が得られなくても緊急避難的に行うべきである。
既に述べたように、急性中毒に対する血液浄化法の適応は限られており、しかも予後を改善するという明確なエビデンスはない。このため、急性中毒に対する血液浄化法は、確立された治療というより、実験的治療、あるいは、何らかの理由で他の療法が施行できないか、施行しても効果がないときの代替的治療に近いといわざるを得ないが、このことをどこまで患者ないしは家族に説明するかは状況による。
一般に、インフォームドコンセントについては、「治療内容の概要と主要な合併症について説明すれば、使用薬剤名などの専門的内容や細かい合併症については説明義務は認められていない」とされている。したがって、急性中毒患者に対する血液浄化法施行のインフォームドコンセントに際しても、必ずしもエビデンスがはっきりしたものだけを示す必要はなく、治療しなかった場合の危険性、治療した場合起こりうる合併症などの一般的事項に加え、当該治療が広く行われていることであることを説明し、同意を得ればいいと思われる。
しかし、インフォームドコンセントの内容については「当該患者が重要視し、かつ、そのことを合理的意志ならば認識できたであろう情報」が必要とされており、これは、患者ごとに説明を変える必要があることを示していると解釈されている。従って、患者あるいは代理人がより詳しい説明を求めてきた場合、時間の許す限り、現在知られているエビデンスは説明すべきであろう。

2)血液浄化法の選択
主な中毒起因物質に対し、血液透析と血液潅流のどちらがより有効かを別表に示した。これは、各物質の分子量、蛋白結合率などをもとにした大まかな目安であるが、必ずしもこれに拘泥することはなく、体外循環の適応であることがはっきりしたら一刻も早く血液浄化法を開始することを主眼に置き、各施設で一番使いやすい方法で開始することが望ましい。一般に、血液透析より血液潅流のほうが除去できる薬剤の幅が広いため、中毒起因物質がはっきりしないときは、血液潅流のほうがより実践的である。また、中毒起因物質が一つではない場合、起因物質と代謝産物の分子量や蛋白結合率が異なる場合など、血液透析と血液潅流を並列に接続し、両者を同時に行うこともある。全身状態が安定しない場合は、CHDFなどの持続的血液浄化法を選択する。

3)ブラッドアクセス
アクセスのしやすさ、穿刺に失敗したときの圧迫のしやすさから、大腿静脈がブラッドアクセス部位の第一選択である。鎖骨下静脈、内頚静脈でも十分なフローは得られるが、穿刺に失敗した場合、体外循環時の抗凝固剤使用に伴って出血することがあるので、穿刺には細心の注意を払う。ダブルルーメンカテーテルを用いれば穿刺は一回ですむし、多くの場合十分な血流が得られるが、血流が得難いときには脱血、返血に別々のブラッドアクセスが必要になる場合がある。
患者の動脈-静脈間圧格差を用いる方法(CAVHなど)は、ポンプが不要で簡便であるが、効率が悪いことから、急性中毒治療ではほとんど用いられない。

4)抗凝固剤
間欠性の血液浄化法で、しかも、出血性の合併症がなければヘパリンを用いるが、出血があったり、持続血液浄化法の場合は、代謝の早いメシル酸ナファモスタットを用いた方がいい。メシル酸ナファモスタットは、0.2-0.6mg/kg/hrが目安で、ヘパリン、メシル酸ナファモスタットともに、血液透析、CHDFではACT150-170秒、血液潅流の場合は200秒前後に保つ。

5)持続期間とカラム交換
全身状態あるいは意識状態が改善するまでは血液浄化法を持続する。(循環状態が極端に不安定になる場合はこの限りではない)遅発性に毒性が出現する物質の場合の中止基準は必ずしも明らかではない。血液透析は通常3-4時間で終了するが、血液潅流は、3-4時間ごとに吸着カラムを交換し、持続的に施行することが可能である。持続血液浄化法の場合のカラム交換頻度は、各カラムの仕様書に従う。

6)リバウンド
上述したように、Vdが大きい物質や、蛋白結合率の高い物質では、血液浄化法終了後に血中濃度が上昇する例があるので、血中濃度、全身状態のこまめな観察が必要である。

【合併症】

 腹膜透析以外のどの血液浄化法も、抗凝固剤使用に伴う、脳内出血、消化管出血などの出血性合併症の危険がある。ブラッドアクセス部の出血、血腫は、穿刺に成功した場合も起こりうる。ほとんどは圧迫で止血可能であるが、穿刺部周囲のタバコ縫合が必要になることもある。
体外循環開始時にショックになることがあるが、これは、プライミングをアルブミンや血液で行っておくことによってある程度予防でき、また、ほとんどの場合、脱血速度を遅くしたり、輸液を負荷することで対処可能である。
回路の接続を誤ったり、接続がはずれると、脱血、空気塞栓を起こしうるので、回路の組み立てには慎重を期す必要がある。上述したような、治療に用いる薬剤の血中濃度低下が起こる場合があるので、血中濃度モニタリングや、追加投与も考慮に入れておく。血液潅流の場合、血小板減少が起こりやすいので、注意が必要である。また、血漿交換、交換輸血の際には、血液型不適合や、アナフィラキシーショックが起こりうる。

TEL 03-3384-8123

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