中毒医療の発展と中毒事故・事件の防止に貢献することを目的としています

MENU

消化管除染

消化管除染

 American Academy of Clinical Toxicology(AACT)/European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists(EAPCCT)が1997年にPosition Statementsを出し,消化管除染の知見,基本手技を刊行した.その後1999年に,AACT/EAPCCTはethylene glycol poisoningのpractice guide linesを公表しているが,これに止まっている.一方,わが国では,中毒医療における基本処置については,いまだ施設によって適応や方法がまちまちである.そこで,日本中毒学会が推奨する「急性中毒の標準治療」と,さらに一歩進んで,主な起因物質に関する「中毒医療ガイドライン」を作成することを作業目標として,2001年7月に学術委員会を発足させた.
日本中毒学会が推奨する標準治療は,American Heart Association(AHA)のAdvanced Cardiovascular Life Support(ACLS)やAmerican College of Surgeons(ACS)のAdvanced Trauma Life Support(ATLS)のような権威あるガイドラインではない.また,質の高い独自の研究からの結論でもなく,したがって絶対で強制されるべきものではない.言葉を換えれば,実施するための基準ではなく,実施を決定する際の考え方とその方法の基準ととらえていただきたい.
とはいえ,単なるレビューではなく,総意として考え,コンセンサスを得て,信ずるところをまとめた所信声明書であり,これを発行するのには,明確な意図がある.中毒患者の最適な治療を目的とすることはいうまでもないが,適応とわが国における手技そのものの標準化が目的である.とくに,手技の標準化は多施設間で行われる臨床試験には不可欠で,同じ土俵での研究が新たな知見を生むことを期待するものである.したがって,最も望むべきはこの標準治療を教育の資料として使用していただくことである.
2001年9月14日に開催された第1回学術委員会では,AACTのPosition Statementsはもちろん,各委員が持ち寄った資料を基に,標準治療として作成する項目とその基本骨格を検討した.詳述は避けるが,基本処置として①胃洗浄,②活性炭・下剤,③腸洗浄,④強制利尿,⑤血液浄化法を作成するが,まず消化管除染として前3者を作成することになった.体系的に構築されたガイドラインとするため,執筆項目(基本骨格)は【要約】,【原理・有効性】,【適応】,【禁忌】,【方法】,【合併症】とし,草案の初稿は胃洗浄を奥村,活性炭・下剤を浅利,腸洗浄を白川委員がそれぞれ担当することになった.なお,日本中毒学会として,これら基本治療におけるインフォームドコンセントについての基本的な態度を示すことが必要であるとの観点から,冨岡,亀井両委員が資料などを収集し,これをとりまとめることになった.
草案作成後の委員間の議論は,100回を超えるメールを介して行われた.委員会内での議論を終え,新たに開設された日本中毒学会のホームページで2002年4月1日からこれを公開した.公開の目的は,同年7月に開催された第24回日本中毒学会で,ワークショップを開催し,さらに広く日本中毒学会会員の意見を求め,現時点での議論をつくすためであった.
ワークショップ開催前の第2回学術委員会では,これまでの議論が再確認され,ワークショップで問題点として提起することになった.これらは次号以降に,各基本治療ごとに順次「解説」として掲載される予定であるので詳述は避ける.
ここにいたるまでに収集された論文は,英文461編,和文63編の計524編である.「急性中毒の標準治療:消化管除染」は,前述のごとく信ずるところをまとめた学術委員会の所信声明書であるが,同じ拡大解釈でも理論的に行うために,可能な限りの科学的根拠,エビデンスを求めて論文の総括を試みた結果である.この膨大な文献もすでに整理されており,すべてを標準治療とともに日本中毒学会のホームページに収載されている.
2002年10月24日に開催された第3回学術委員会では,記載内容を一句ずつ確認するかたちで,長時間をかけて最後の議論を行った.このようにして完成した日本中毒学会学術委員会の標準治療とAACTのPosition Statementsとの大きな差は,その適応において除染の臨床的効果が証明されていないものはなお今後の課題であるとする見解と,治療の臨床的効果が有効と判断できないものは施行しないとする見解の相違である.母集団にもよると思われるが,米国での胃洗浄の施行率は,Position Statementsの出された2年後の1999年には,14.4%にまで激減し,胃洗浄はまれにしか施行されない治療法となった.わが国では極く一部の施設を除いて,経口中毒例の90%を超えるほとんどの症例に胃洗浄が施行されている.とりあえず,胃洗浄と活性炭および下剤を投与するわが国の習慣は是正されるべきであるが,各基本処置の相互関係を議論し,胃洗浄と活性炭は同程度の適応があるとして,その実施は医師の裁量に委ねるとした.手技の統一がなされ,実施症例の実態が把握できれば,多施設間の臨床データからその有効性を再検討することが可能で,新たに得られたエビデンスを取り入れた改訂版を数年後に策定することも夢ではない.
AACTのPositon StatementsはEAPCCTが加わり,60カ国を超えるまさに多国間で承認された消化管除染の現時点での知見の集大成といえる.消化管除染のみであれば,これを準用してもよいが,活性炭の普及など日本では医療状況が異なること,またその主旨が事実上全く広がらなかったこと,さらにはPosition Statementsが消化管除染のみに止まっていることも大きな問題である.日本中毒学会学術委員会では,標準治療の第2段である強制利尿と血液浄化法の草案作成にすでに取り組んでおり,第25回日本中毒学会でワークショップを開催し,消化管除染と同様に会員諸兄の意見を求める予定である.
学術委員会の作業は始まったばかりであるが,今後は「対症療法:①循環管理,②呼吸管理,③痙攣対策,④体温管理」,冒頭で述べた「中毒医療ガイドライン」と進めて行く予定である.これらの過程は,準機関誌である中毒研究と日本中毒学会のホームページで逐次公開して行く予定である.
中毒は,起因物質により発現する症状やその重症度が異なるのは当然であるが,その一方で,基本的な診断・治療の進め方には共通したものがある.欧米には数回の改訂を重ねている中毒に関する優れた成書がある.近年,わが国においてもかなりの数の教科書が発刊されているが,その評価はいまだ定まったものではない.とくに,胃洗浄や吸着剤の投与といった基本的治療については,日本中毒学会でそのガイドラインを作成すべきである.後に批判は受けるとしても,可能な限りEBMに基づいた「日本中毒学会の中毒医療ガイドライン」を策定すべきと考えている.

TEL 03-3384-8123

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
PAGETOP
Copyright © 一般社団法人 日本中毒学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.