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消化管除染(4) 腸洗浄

消化管除染(4) 腸洗浄

【要約】

腸洗浄(whole bowel irrigation)は,多量の洗浄液を上部消化管から投与して全腸管を洗い流し,未吸収薬毒物の排出を早める方法である.洗浄液には,体液異常を起こしにくいポリエチレングリコール電解質液(ニフレックTM)が優れている.1時間に1~2lを数時間以上にわたって持続注入するため,通常,経鼻胃管または十二指腸チューブを挿入する.薬毒物の吸収阻止効果と臨床的転帰の改善について,他の消化管除染法(とくに活性炭投与)との比較試験は乏しく,物質による適不適も詳しくは検証されていない.現段階では,理論的によい適応と考えられる症例(すなわち,活性炭に吸着されにくく,腸管吸収が比較的遅いと予想される物質であって,重篤な中毒を起こす危険がある場合)と,他に有効な治療手段のない致死的中毒症例(例えば,パラコート)に限るべきである.

【原理・有効性】

1) 腸洗浄の基本原理
大量の液体による機械的な洗浄であり,単なる緩下剤投与よりも強力な腸管内容物の排出効果を期待している.ポリエチレングリコール電解質液(polyethylene glycol electrolyte solution;PEG-ES)を用いた腸管洗浄の機械的な洗浄効果については,大腸手術や大腸内視鏡検査など,各種の処置について行われた臨床治験が多数あり,確実と思われる.とくに,固形物(錠剤など)の排出を早める効果は十分に期待できる.
しかし,急性中毒症例においては,溶解しやすい薬毒物の吸収阻止効果が問題となる.そうした効果が吸着剤(活性炭など)の投与よりも優れているという明確な証拠はなく,転帰が改善されることを示した臨床対照研究もない.比較的新しい(1980年代から始められた)方法であるため,有効性と合併症のバランスシートも十分には検証されていない.
さらに,ニフレックTMなどには,急性中毒への保険適応は認められていない.
2) 技術的な課題
以下の3点が問題となる.
① 多量の洗浄液を上部消化管から安定して注入する投与経路が必要である.
② 注入された洗浄液の嘔吐・逆流を防がなければならない.
③ 体液・電解質バランスに悪影響を与えないようにしなければならない.
①の課題には,経口投与では無理があるため,通常,経鼻胃管または十二指腸チューブを用いる.
②の課題は,体位の工夫(半座位)で解決されることが多いが,バルーン付きチューブの使用や,腸蠕動刺激薬(プリンペランTM)の併用なども考慮されてよい.また,中毒物質によっては,麻痺性イレウスを起こして洗浄じたいが困難となる(例えば,大量のパラコート中毒).
③の課題は,大腸手術前処置用に開発されたポリエチレングリコール電解質液(PEG-ES)によってかなり解決された.塩素イオン(Cl-)の代わりに,腸管吸収の少ない硫酸イオン(SO42-)を多く含んでおり,非吸収性のポリエチレングリコールが添加されている.ニフレックTMなどの商品名で市販されている.吸収されにくいという点では,生理食塩液はPEG-ESより明らかに劣るため,特別の理由がないかぎり,洗浄液として使用すべきでない.
3) 吸着剤の併用
活性炭をPEG-ESに混じると,除染効果が減殺されるという報告と増強したという報告の両方があり,目標物質によって違う可能性がある.また,パラコート中毒に対して,PEG-ESとケイキサレートTMの混合が除染効果を高めないという動物実験の報告がある.したがって,吸着剤の混合は,どちらがよいともいえないのが現状であるが,原則としては併用すべきでない.
4) 結   論
現状では,研究段階の治療法であるとの認識のもと,症例を選んで行うべきである.

【適応】

現状では,確たる基準はない.理論的によい適応と考えられるのは,重篤な中毒症状を起こす危険がある場合で,しかも,①吸着剤(活性炭など)の効果が少なく,②吸収が比較的遅いと予想される物質(あるいは物理的形状)である.例えば,金属類(鉄,ヒ素,鉛など)の大量服用がこれにあたる.医薬品でも徐放剤あるいは腸溶錠はこの条件にあてはまる.麻薬のボディーパッカーにも考慮されるべきであろう.
重い中毒症状を起こす可能性の高い中毒症例すべてに本法を施行するには,臨床データが不十分である.ただし,上記①②の条件を満たさなくても,有効な治療法が確立されていない致死的中毒(例えば,パラコート)に対しては,生命予後に関する効果が証明されていないと承知したうえで,できるだけ早期に施行する価値はある.
本法を施行するタイミングは早いほどよい.可能なら,強い中毒症状が出現する前に開始すべきである.ただ,一律に服用後の何時間以内と示すことは原理的に不可能であり,対象毒物の吸収速度を考慮して個別に決めるほかない.とくに,吸収が比較的遅い中毒起因物質では,中毒症状の発現後であっても,理論的には効果を期待し得る.

【禁忌】

①腸閉塞(麻痺性,機械的を問わない)の存在
②消化管出血の存在
③消化管穿孔の疑い
④難治性で持続性の嘔吐
⑤気道確保が不十分な意識障害
⑥ショック

【方法】

1) 準備する物品
① ニフレックTM:1袋を水に溶解して全量を2lとし,38℃に暖めておく.成人では少なくとも2袋を使用する.1袋約137g中に4種の塩(NaCl2.93g,KCl1.485g,NaHCO33.37g,Na2SO411.37g)を含み,等張化剤としてポリエチレングリコール4000が添加されている.溶解後の最終組成は,Na+=125,K+=10,Cl-=35,HCO3-=20,SO42-=80mEq/lとなる.なお,本剤には中毒に対する保険適応はない.
活性炭ないしは他の吸着剤をあらかじめPEG-ESに混ぜるのは,前述の理由により,原則として行
わないほうがよい.
② 経鼻胃管(12~14Fr),またはバルーン付き十二指腸チューブ.
③ 経管栄養法の一般的な注入セット.
2) 実施の前に
① インフォームド・コンセントを行う.
② 胃洗浄に準じた気道確保を行う.
③ 必ず静脈路を確保する.
④ 原則として,腸洗浄に先立って十分な胃洗浄を行っておく.
3) 実施方法
(1) 腸洗浄用チューブの挿入
胃洗浄用のチューブを抜去したあと,胃管またはバルーン付き十二指腸チューブを経鼻挿入する.胃内に残留物がなければ,十二指腸チューブのほうが優れる.胃内に胃洗浄で取りきれない錠剤などの残留があれば,胃管を使用すべきである.ゼングスターケン-ブレイクモア・チューブやそれに類似した胃バルーンをもつチューブが,挿入の簡便さと逆流防止の両面で優れるという報告もある.
① 胃管を用いる場合,仰臥位で挿入すると胃底部でループをつくってしまうため,座位または右側臥位で挿入し,胃管の先端を胃体中央部以下に置くのがよい.可能なら,透視下に(ガイドワイヤを用いて)幽門近くまで誘導する.
② 十二指腸チューブを使用する場合は,透視下にガイドワイヤを用いて挿入する.
(2) 体   位
注入中は,座位または半座位とする.それができなければ,頭高位の右側臥位とする.
(3) 洗浄液の注入速度と持続時間
38℃に暖めた洗浄液を,以下の流量で持続注入する.
6歳以下:500ml/h,学童:1,000ml/h,12歳以上:1,500~2,000ml/h.
洗浄液の注入は,少なくとも,透明な水様便が排泄されるまで続ける.通常は数時間以上を要する.X線不透過の薬毒物であれば,それが腹部単純X線像から消失するまで続ける.
(4) 嘔吐・腸麻痺への対策
嘔吐または腸麻痺があれば,メトクロプラミド(プリンペランTM)1Aを筋注または緩徐に静注する.2回まで追加してよい.それ以上を使用しても危険は少ないと考えられるが,効果/副作用はわかっていない.プロスタグランジンF2α(プロスタルモンFTM)持続静注も腸麻痺に効果的かもしれないが,本法における効果/副作用は不明である.これらは,施行医師の経験に基づき安全と考えられる範囲内で許容される.なお,嘔吐のあった後は,1時間だけ洗浄液の注入速度を半減する.

【合併症】

① 嘔吐が最も多い.したがって,誤嚥防止策をあらかじめ確実にしておく必要がある.また,嘔吐に伴う自律神経反射により,一過性の徐脈・頻脈,低血圧が生じることがある.まれではあるが,大腸手術や検査用の腸洗浄では,嘔吐によるマロリーワイス症候群も報告されている.
② 腸蠕動亢進のため腹痛も多いが,大部分は比較的軽度ですむ.
③ PEG-ESを使えば,体液・電解質の異常は少ないといわれているが,結果として大量使用になりやすいため,注意しなければならない.
④ 体温低下には十分に注意する必要がある.
⑤ ニフレックTMにより,きわめてまれにショック,アナフィラキシー様症状が起こり得ることが報告されている.

TEL 03-3384-8123

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