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その12 メタノール

分析が有用な中毒起因物質の実用的分析法 -その12- 

メタノール 
堀  寧,岩崎泰昌 

・簡易分析法〔アルコール類の〕 
  重クロム酸反応:尿1.0ml(検出下限:400μg/ml) 
・機器分析法 
  GC/MS法.試料:全血0.5ml,検出下限:10ng/ml(メタノール) 

 1. 概   要 
 急性中毒の事例としては,エタノールと誤って燃料用メタノールを飲用することが多い1).また,メタノールは多くの溶媒(シンナーなど),ウインドウォッシャー液などの洗浄液,複写液,塗料消去剤,農薬,展着剤,固形燃料,芳香剤にも含有し2,3),これらの摂取時にもメタノール中毒を念頭におく必要がある. 
 2003年度における(財)日本中毒情報センターへの問い合わせ件数は,メタノール含有展着剤が6件,工業用メタノールが15件,メタノール含有自動車用品が6件である.しかし,メタノールの含有が明らかでないにせよ,シンナーは61件,塗料・ワニス・ラッカー類は89件,工業用洗浄剤は37件,農薬用品は891件の問い合わせ件数があり,前述したように潜在的なメタノール中毒の存在がありうる4). 
 日本中毒学会分析のあり方検討委員会による“薬毒物分析の指針に関する提言”5)のなかで,メタノールは,①解毒・拮抗剤(エタノール)が存在する,②分析依頼頻度が高い,③定量分析値が治療法の選択基準となる,などの理由から分析すべき品目に選択されている. 
 メタノール中毒において,メタノール自体はおもに酩酊状態を生じるが,その代謝産物であるギ酸は6~30時間という潜伏期間を経て代謝性アシドーシス,失明を引き起こし,致死的となりうる.したがって,ギ酸の定量分析値も中毒の重症度の判断や治療のモニタリングとして参考になる2).そこで,今回はメタノールに加えてギ酸の分析法についても触れたいと思う. 

 2. 簡易検査法(アルコールが対象) 
 重クロム酸反応 
 尿1mlに重クロム酸ナトリウム(10%)-硫酸(50%)混合溶液1mlを加えて放置する.あるいはガラス繊維のろ紙に重クロム酸ナトリウム(2.5%)-硫酸(50%)混合溶液を1滴滴下した試験紙を作製し,尿1mlを入れた試験管の気相部に試験紙を懸垂した後にコルク栓をし,沸騰水浴中で2分間放置する.アルコールやアルデヒドの存在で緑色が生じる6,7).検出下限は400μg/mlである7). 
 そのほか,市販の北川式検知管(光明理化学工業株式会社)をアルコール摂取のスクリーニングに用いることも可能であるが,いずれの方法もメタノールに特異的な検査ではなく,飲酒で陽性となるために確定診断はできない. 

 3. 機器分析法 
 従来,メタノールやギ酸の分析にはパックドカラムを用いたGC法が用いられてきたが,最近はワイドボアキャピラリーカラムに加温した試料の気相(ヘッドスペース)を導入するGC法が用いられている1).この方法は機器の汚染が少なく,簡易で迅速なうえ,定量性にも優れている.全国の高度救命救急センターには,GC/MSが配備されているので,今回は,DB-WAXセミワイドボアキャピラリーカラムを用いたアルコールとギ酸のGC/MS分析法を紹介する. 

 1) アルコールのGC/MS分析法 
 【前処理方法】 
① バイアル瓶(シリコン製セプタム付き)に試料(血液,尿など)500μl(g)を入れる. 
② 内部標準物質(1mg/mlのアセトニトリル水溶液)を500μl加え,シリコン製セプタムで密栓する. 
③ 55℃アルミブロックヒーターで,20分間加温する. 
④ 温ガスタイトシリンジで気相200μlをGCに注入する. 
 【分析条件】 
装  置:GC17Aガスクロマトグラフ/GCMS-QP5050A質量分析計(島津製作所) 
カ ラ ム:DB-WAXセミワイドボアキャピラリーカラム(60m×0.32mm i.d.,膜厚0.5μm,J & W Scientific) 
カラム温度:80℃(3min)-15℃/min-120℃ 
キャリアガス:He3.0ml/min,スプリット比10 
注入量:スプリットモード200μl注入 
注入口温度:200℃ 
インターフェース温度:200℃ 
イオン化法:EI法,検出質量範囲:m/z10~150 
定量範囲(SIMモード): 
     メタノールとエタノール 
      (m/z31)0.01~10mg/ml 
     イソプロパノール 
      (m/z45)0.005~10mg/ml 
     内部標準物質(m/z41) 
検出下限:メタノール,エタノール 
      0.005mg/ml(S/N比5) 
     イソプロパノール 
      0.001mg/ml(S/N比5) 
 2) ギ酸のGC-MS分析法 
 【前処理方法】 
① バイアル瓶(シリコン製セプタム付き)に全血(あるいは尿)500μlを入れる. 
② 内部標準物質(1mg/mlあるいは0.1mg/mlのアセトニトリル水溶液)を500μl加え,氷水浴中で濃硫酸 300μlをゆっくり添加しながら撹拌する. 
③ 十分に冷却した後,メタノール25μlと蒸留水200μlを加え,シリコン製セプタムで素早く密栓し,十分に 撹拌する. 
④ 35℃アルミブロックヒーターで撹拌しながら15分保温する. 
⑤ 温ガスタイトシリンジで気相200μlをGCに注入する. 
 【分析条件】 
装  置:GC17Aガスクロマトグラフ/GCMS-QP5050A質量分析計(島津製作所) 
カ ラ ム:DB-WAXセミワイドボアキャピラリーカラム(60m×0.32mm i.d.,膜厚 0.5 μm,J & W Scientific) 
カラム温度:34℃(3min)-5℃/min-100℃ 
キャリアガス:He 3.0ml/min,スプリット比5 
注 入 量:スプリットモード200μl注入 
注入口温度:240℃ 
インターフェース温度:240℃ 
イオン化法:EI法,検出質量範囲:m/z10~80 
定量範囲(SIMモード): 
     ギ酸メチル800~10mg/ml(m/z60) 
     内部標準物質(m/z41) 
検出下限:ギ酸メチル5mg/ml(S/N比5) 

 4. 症   例 
 24歳,男性.気分不良のため近医を受診した.意識レベルの低下と呼吸困難があり,気管挿管を施行された.動脈血液ガス分析上でpH6.813,HCO3-2.2mEq/lと高度の代謝性アシドーシスを認めた.メイロンを投与するも,全身状態が改善せず,大学病院の救急部に転院搬送となった.何らかの薬物中毒を疑い,薬毒物定性試験を行った. 
 トライエージは陰性,血中シアン検査も陰性であったが,尿アルコール定性検査で陽性を認めた.代謝性アシドーシスと尿アルコール定性検査からメタノール中毒を強く疑い,GC/MSを用いて入院時血液中のメタノール(図3)とギ酸(図4)の定性分析を行い,さらに定量分析値はそれぞれ2.7mg/ml,969.0μg/mlと致死量であることが判明した.エタノールは検出されなかった.4時間の血液透析を施行し,代謝性アシドーシスは改善したものの,意識レベルは来院時よりさらに低下したと思われ,また痙攣発作も起こったことから頭部CTを施行した.頭部CT所見上,脳腫脹と両側被殻のLDAと腫大を認めた.症状が改善しないことから,再度血液透析を施行した.翌日の頭部MRI所見では,被殻の神経細胞の浮腫と被殻周囲の浮腫を認めた.このため,連日グリセオールを投与した.入院4日目より意識レベルは徐々に上昇し,退院前には手動弁を認識できるまで視覚は改善した.後になり,来院の2日前の夜,友人と飲酒時に容器に入れたアルコールを摂取したことが判明し,これがメタノールであったと考えられた. 

 5. 毒性・体内動態 
 メタノールは,消化管粘膜および気道粘膜,皮膚より速やかに吸収され,アルコール脱水素酵素により酸化されてホルムアルデヒドになり,さらにアルデヒド脱水素酵素によりギ酸となり,最終的には二酸化炭素と水に分解されて排泄される. 
 中間代謝産物であるギ酸の蓄積は高度のアシドーシスをきたし,また視神経のチトクローム酸化酵素を阻害することで失明を引き起こす.メタノールの代謝は緩やかであり,アシドーシスや視神経症状が発現するのに半日~1日程度を要する.メタノールは血漿タンパクとほとんど結合せず,分布容積はおよそ0.6l/kgである.ヒトの致死量は30~100ml以上,失明は10ml以上とされているが個人差が大きい3).血中メタノール濃度が200μg/ml以上であれば有毒性,400μg/ml以上であれば非常に重篤とされ2),血中メタノール濃度が500μg/ml以上あれば重症,1,000μg/mlで致死的との記述もある8). 

 6. 臨床所見 
 急性メタノール中毒の臨床所見で最も特徴的なのは中枢神経症状,眼症状,消化器症状と代謝性アシドーシスである.服用早期には酩酊状態を呈し,代謝産物のギ酸が蓄積しだす12~24時間後より頭痛,嘔気,嘔吐,腹痛,複視,視野狭窄,色覚異常,中心暗点,視神経線維束欠損,一過性あるいは恒久的な視力障害などの眼症状,代謝性アシドーシス,過呼吸,昏睡,痙攣と進行する3). 

 7. 治   療 
 一般的な急性中毒の初期治療からすれば,経口摂取した後1時間以内の場合で,大量服用の疑いがあり,胃内に多く残留している可能性があるときに胃洗浄の適応がある9).しかし,メタノールは消化管粘膜からの吸収が早く,服用直後ないしはごく短時間のうちでなければ効果は期待できない3).メタノール単独服用の場合,活性炭投与はメタノールが活性炭にほとんど吸着されないため効果がない10). 
 アシドーシスの存在によりギ酸の毒性がさらに増加するといわれ,炭酸水素ナトリウム静注による補正が必要である.また,メタノールとギ酸は血液透析で効率よく除去できる.メタノール30ml以上の服用,アシドーシス,血中メタノール濃度50mg/dl(0.5mg/ml)以上,中枢神経および眼症状の出現が適応とされる3). 
 メタノールよりエタノールのほうがアルコール脱水素酵素に対する親和性が高いことから,代謝性アシドーシス,血中メタノール濃度20mg/dl(0.2mg/ml)以上,メタノールの摂取が確実で何らかの症状がある場合にエタノール投与が有用とされる.初回投与量は0.6g/kg,維持量は0.1g/kg/時を2~3日程度投与する.この際,血中エタノール濃度のモニタリングが可能であれば行い,低血糖にも注意する3). 
 このほか,ギ酸の代謝を促進するロイコボリン療法,アルコール脱水素酵素の特異的拮抗剤である4-メチルピラゾール療法などがある3). 

 謝   辞 
 急性メタノール中毒症例の分析検体および臨床情報の提供について,山形大学医学部器官機能統御学講座急性期生体機能統御学分野・川前金幸先生,伊関憲先生よりご協力いただきました.この場を借りて感謝いたします. 

 文 献 
1) 鈴木 修,屋敷幹雄編:薬毒物分析実践ハンドブック.じほう,2002,pp109-17. 
2) 坂本哲也監訳:中毒ハンドブック.メディカルサイエンスインターナショナル出版,東京,1999, pp177-8. 
3) 大橋教良:メタノール, 日本中毒情報センター編:改定版 症例で学ぶ中毒事故とその対策.じほう,東京,2000, pp360-3. 
4) (財)日本中毒情報センター:2003年受信報告.中毒研究 2004;17:173-203. 
5) 吉岡敏治,郡山一明,植木真琴,ほか:薬毒物分析の指針に関する提言.中毒研究 12:437-41,1999.
6) 日本薬学会編:薬毒物化学試験法と注解.南山堂,東京,1992,pp13. 
7) 広島大学医学部法医学講座編:アルコール.薬毒物の簡易検査法-呈色反応を中心として-.じほう,東京,2001,pp77. 
8) 内藤裕史:中毒百科,改定第2版.南江堂,東京,2001,pp44-8. 
9) 奥村 徹,吉岡敏治,白川洋一,ほか:学術委員会だより 急性中毒の標準治療-2- 消化管除染① 胃洗浄.中毒研究 16:79-82,2003. 
10) Ellenhorn MJ, Barceloux DG:Medical Toxicology Diagnosis and Treatment of Human Poisoning, ELSEVIER, New York,1998, pp801-5. 

この記事についての問い合わせ先:新潟市民病院薬剤部 堀  寧 
E-mailアドレス horiy@xa3.so-net.ne.jp

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