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その8 パラコート

・簡易分析法 
  呈色反応.試料:尿1ml,検出下限:2μg/ml 
・機器分析法 
  HPLC法.試料:血清1ml.検出下限:0.05μg/ml 
・患者の予後を予測できる血中濃度範囲:0.1μg/ml~ 

商品名(成分名) 
 グラモキソン●,パラゼット●(パラコート) 
 プリグロックスL●,マイゼット●(パラコート・ジクワット) 

 1. 概   要 
 パラコート(paraquat)含有除草剤は,1965年に発売されて以来わが国で多数の中毒者を出してきた.1986年,パラコートの毒性を軽減する目的でジクワットとの混合製剤が発売され,それ以降中毒者数は急激に減少した.しかしながら,その強い毒性のためにいまだに農薬中毒による死者の約40%をしめている. 
 (財)日本中毒情報センターへの問い合わせ件数は,2001年に54件1),2002年に58件2),科学警察研究所資料3)による中毒死者数は,2000年に293人,2001年に216人となっている.
 パラコート中毒者の初期症状は,特徴が乏しく,意識明瞭なことも多く,中毒患者に対して最も重要な初期診断時にパラコート服用の事実を見逃す危険性があり,分析による確認は重要である.また,パラコートの血中濃度は,その患者の予後を予測する目安ともなっている. 

 2. 簡易検査法4) 
 パラコートは,アルカリ性の水溶液中でハイドロサルファイトなどの還元剤により1電子還元を受けると青色のパラコートラジカルに変化する.ジクワットは緑色となる.検査試料としては,飲み残し溶液や尿1mlを用い,0.1%ハイドロサルファイト含有1M水酸化ナトリウム溶液1mlを加えて攪拌する.2μg/ml以上の濃度で検出可能である. 

 3. 機器分析法 
 パラコート含有除草剤による中毒例について分析を行う場合,パラコートとジクワットを分離して検出する必要がある.パラコートとジクワットの同時分析法としてはHPLC5~8),GC9),2波長分光分析法10),二次微分分光分析法11)などがある.本稿ではパラコートとジクワットを血液から同時に検出・定量できるHPLCによる分析法について紹介する6). 
 【前処理方法】 
 1) 試薬と調整 
  ① パラコートジクロリド(和光純薬)13.8mgを水10mlに溶解し,1mg/ml(パラコートイオンとして)の標準溶液とする. 
  ② ジクワットジブロミド(和光純薬)18.7mgを水10mlに溶解して1mg/ml(ジクワットイオンとして)の標準溶液とする. 
  ③ エチルパラコートジイオジド(シグマアルドリッチ)10mgを水10mlに溶解して1mg/mlの標準溶液とする(内部標準溶液). 
 2) Sep-Pak C18カートリッジによる抽出 
  ① 血清1.0mlに内部標準溶液を50μl加える. 
  ② Vortex mixerで攪拌しながら10%トリクロロ酢酸1.5mlを加える. 
  ③ 3,000回転10分間遠心分離して上清を分取する. 
  ④ メタノール5ml,水5ml,0.1M塩酸5ml,水5mlでSep-Pak C18カートリッジ(200mg,Waters)を活性化する. 
  ⑤ ③で得られた上清に20%炭酸ナトリウム溶液1.4mlを加え,約pH11に調整し,速やかにカートリッジに注入する(ジクワットはアルカリで分解するためこの操作はすばやく行う). 
  ⑥ カートリッジを水5ml,メタノール3ml,水5mlで洗浄し,0.1M塩酸2mlで溶出する. 
  ⑦ 溶出液の一部(500μl)をヒートブロックで加温しながら(80℃)窒素ガスにて乾固する(全量を蒸発乾固するにはかなりの時間を要する.緊急分析で薬物濃度が濃いと予想される場合は,溶出液を直接HPLCの試料とすることも可能). 
  ⑧ 残渣に100μlの移動相を加え,3,000回転で5分間遠沈した上清10μlをHPLCに注入する. 
 【分析条件】 
 装 置:Hewlett Packard 1090M HPLC system 
 カラム:逆相系カラム(CAPCELL PAK C18 MG,長さ250mm×内径3mm,粒径5μm,資生堂) 
 移動相:7.5mMオクタンスルホン酸ナトリウム(ヘプタンスルホン酸ナトリウムでも可),0.1Mジエチルアミン,0.2Mリン酸を含む水溶液/アセトニトリル=97/3(注:カラムによって溶出時間が異なるのでアセトニトリルの量で調節する). 
 検出波長:290nm 
 流 速:0.8ml/min 
 カラム温度:40℃ 
 リンス液:水/アセトニトリル=97/3(V/V) 
 【分析結果】 
 図1にパラコートとジクワットを各5μg/ml添加した血清試料のクロマトグラムを示す.パラコートは5.82分に,ジクワットは6.18分に,内部標準物質のエチルパラコートは11.36分にシャープなピークを示し,妨害ピークは認められない.検量線は0.1~10μg/mlの範囲で良好な直線性を示す.検出下限は0.05μg/mlで,1μg/mlにおける回収率は約60%である. 

 4. 症   例 
 67歳,男性,職種は専業農家. 
 午後9時30分頃,飲酒後に自殺目的でウイスキーのボトルに入れ替えた農薬を約100ml経口摂取した.嘔吐しているところを家人が気づいて救急車を要請し,午後10時30分に病院へ搬送された.救急車内でも頻回に緑色の吐物を嘔吐した.来院時,意識レベルとバイタルに異常はなく,瞳孔径および血清コリンエステラーゼ値も正常であった.吐物の色と繰り返す嘔吐からパラコート製剤による中毒を疑い,尿をハイドロサルファイト試験に供したところ,濃青色となり,強陽性と判断した.初期治療として胃洗浄を10l施行し,活性炭を注入した. 
 入院時BE-3.7と軽度のアシドーシスを認めたが自然に回復し,尿量も保たれていた.第2病日の午前9時30分に採血した血清よりパラコート1.09μg/ml,ジクワット0.67μg/mlが定量され(図2),Proudfoot12)およびHart13) の生存曲線上で救命困難のレベルであった(図3).第2病日の夕方より尿量が減少し,呼吸状態も悪化したため鎮静し,経過を観察した.第3病日の午前2時に呼吸停止,その後心停止となり,午前3時35分に死亡を確認した. 

 5. 血中濃度と重症度14) 
 予後はパラコートの血中濃度と相関する.Hartノモグラム13)がよく知られ,これによれば,パラコートの血清濃度が摂取4時間後で2μg/ml,6時間後で0.9μg/ml,24時間後で0.1μg/ml以上の場合,死亡する可能性が高い.また,これを経口致死量(LD)でみると2~4g.20%液剤の場合,成人で10~20ml,小児で4~5mlとなる. 

 6. 体内動態 
 経口摂取の場合,吸収は主に小腸で行われるが,摂取量の1~5%にすぎず15),残りは糞便中に排泄される.血中濃度は摂取後2時間以内に最大になる.吸収されると,主として肺,腎臓,肝臓,筋肉に分布する.肺胞では脂質が過酸化され,細胞が壊死し,線維結合織が増殖するため,肺線維症が起こる.排泄はほとんどが腎臓からで,摂取後12~24時間以内に90%以上が排泄される. 
 パラコートは,生体内でNADPHと酸素とともに酸化還元を繰り返し,スーパーオキシド基を生成し,さらに過酸化水素,ヒドロキシルスーパーオキシド遊離基を生成する.その結果,NADPHは枯渇し,細胞死が起こり,ヒドロキシル遊離基は細胞壁の脂質を酸化変性させてDNAとタンパクを破壊する.パラコートによる細胞傷害には細胞レベルでの酸素が重大な発生因子となっており,これが初期治療において高濃度の酸素投与を行わない根拠となっている. 

 7. 臨床所見 
 3つの病期にわける. 
 ① 摂取直後~1日目:激しい嘔吐,悪心,腹痛が生じ,口腔~上部消化管粘膜にびらんや潰瘍を形成する.20%液剤60ml以上の大量摂取時には,腐食性の食道穿孔・縦隔炎のほか,肝・腎・心臓・呼吸器・副腎などの多臓器不全が急速に進行し,24時間以内に死亡する. 
 ② 2~3日:腎・肝不全が徐々に進行し,乏尿,無尿,黄疸が出現する. 
 ③ 3~10日:進行性の肺線維症が生じ,心膜気腫,気縦隔,気胸などを合併する. 

 8. 治   療 
 1) 緊急処置 
  ① 気道を確保し,換気を補助する.高濃度の酸素投与は禁忌. 
  ② 汚染された衣服を除去し,皮膚・眼をよく洗浄する. 
  ③ 胃洗浄:パラコートの青緑色が消えるまで十分に行う. 
  ④ 腸洗浄:十二指腸までチューブを挿入し,ケイキサレート50g+水300~500ml,あるいは活性炭1g/kg+クエン酸マグネシウム250~500mlを2時間ごとに繰り返し注入する. 
  ⑤ 輸液:体液・電解質・pHを補正し,尿排出量を維持するため,積極的な輸液管理を行う. 
 2) 特異的拮抗薬:なし 
 3) 血液浄化法:パラコートの分布容積は2.8l/kgと大きく,効果には疑問がある.尿中定性反応の陰性化までをめやすに,血液吸着(DHP)を推奨する人もいる.摂取から4時間以内に開始された場合のみ有効とする報告もある.血液透析と強制利尿は無効である. 

 文 献 
1) (財)日本中毒情報センター:2001年受信報告,中毒研究 2002;15:195-225. 
2) (財)日本中毒情報センター:2002年受信報告,中毒研究 2003;16:213-43. 
3) 科学警察研究所:薬物による中毒事故等の発生状況,科警研資料第44報 2002,第45報2003. 
4) 広島大学医学部法医学教室:パラコート,薬毒物の簡易検査法,じほう,2001,pp100-2. 
5) Gill R, Qua SC, Moffat AC:High-performance liquid chromatography of paraquat and diquat in urine with rapid sample preparation involving ion-pair extraction on disposable cartridges of octadecyl-silica. J Chromatogr 1983;255:483-90. 
6) 福家千昭,飴野 清,白川洋一,他:高速液体クロマトグラフィーによる体液及び臓器・組織中パラコートとジクワットの同時分析法と中毒例への応用.中毒研究 1992;5:387-93. 
7) Ito S, Nagata T, Kudo K, et al:Simultaneous determination of paraquat and diquat in human tissues by high-performance liquid chromatography. J Chromatogr 1993;617:119-23. 
8) Kage S, Kudo K, Fukushima S, et al:Selective determination of paraquat and diquat in blood by high-performance liquid chromatography and high-performance liquid chromatography/mass spectrometry. Jpn J Forensic Toxicol 1998;16:34-41. 
9) Kawase S, Kanno A, Ukai S:Determination of the herbicides paraquat and diquat in blood and urine by gas chromatography. J Chromatogr 1984;283:231-40. 
10) 田山順一,小松正孝,土井幹雄,他:2波長測光によるパラコート,ダイコート同時分析法.中毒研究  1991;4:157-62. 
11) 福家千昭,飴野 清,飴野節子,他:二次微分分光分析法による血清中および尿中パラコートとジクワットの同時分析法.医学のあゆみ 1987;143:657-8. 
12) Proudfoot AT, Stewart MS, Levitt T, et al:Paraquat poisoning:significance of plasma-paraquat concentrations. Lancet 1979;2:330-2. 
13) Hart TB:A new statistical approach to the prognostic significance of plasma paraquat concentrations. Lancet 1984;2:1222-3. 
14) 内藤裕史:パラコート,ジクワット.中毒百科,南江堂,2001,pp293-305. 
15) Bismuth C, Hall AH (eds):Paraquat Poisoning:Mechanism, Prevention, Treatment. New York, Marcel Dekker, 1995. 

この記事についての問い合わせ先:九州大学大学院医学研究院法医学 工藤恵子 
E-mailアドレス:kudok@forensic.med.kyushu-u.ac.jp

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