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その11 メタンフェタミン

分析が有用な中毒起因物質の実用的分析法 -その11- 

メタンフェタミン 
奈女良 昭,工藤恵子,屋敷幹雄,黒木由美子,山口芳裕 

・簡易分析法 
  Triage 試料:尿140μl,検出下限:1μg/ml 
  薄層クロマトグラフ法,検出下限:1μg 
・機器分析法 
  GC/MS法 試料:血液,尿0.5ml,検出下限:50ng/ml 
  HPLC法 試料:血液,尿0.2ml,検出下限:50ng/ml 

商品名(成分名) 
ヒロポン(塩酸メタンフェタミン) 

 1. 概   要 
 メタンフェタミンは一部の臨床応用を除いて「覚せい剤取締法」により,使用や所持が厳しく規制されている.覚せい剤取締法での覚せい剤とは,①フェニルアミノプロパン(アンフェタミン,Amphetamine),フェニルメチルアミノプロパン(メタンフェタミン,Methamphetamine)および各その塩類,②上記に掲げるものと同種の覚せい作用を有するものであって政令で指定するもの,③これらのいずれかを含有するものとされてい る. 
 近年の覚せい剤乱用は第三次乱用期とされており,検挙者数も高い水準にある.また,乱用者が中高生へと低年齢化し,平成14年の中高生の検挙者数は110名(全検挙者数16,964名)にもおよんでいる1).また,2003年の(財)日本中毒情報センターへの問い合わせ件数は36,233件中6件であり,すべて医療関係者である2). 
 精神的依存が強く,摂取を中止すると脱力感やうつ状態,疲労感が出現し,再度摂取するといった悪循環がはじまる.また,覚せい剤の使用を断ち切った後,少量の再摂取やストレスによって精神症状が再燃する現象(フラッシュバック)が認められることもある3). 

 2. 簡易検査法 4) 
 高価な機器を用いずに簡単な操作で検査できるのが,尿中乱用薬物スクリーニングキットTriage〔シスメックス(株)〕である.Triageは,金コロイド粒子免疫法に基づくイムノアッセイ法(ASCENDマルチイムノアッセイ法:AMIA)で,化学的に標識した薬物と尿中に存在する薬物との抗体に対する競合反応を利用している.ほかにもイムノアッセイを利用した製品としてMonitectやVisualineなどがある.検出感度はおおむね1μg/mlである. 

 3. 機器分析法 
 前処理方法としては,液-液抽出法や固相抽出法が利用できる.ただし,メタンフェタミンは揮発性があるため,抽出溶剤留去の際には注意を要する.機器分析は,高速液体クロマトグラフ法(HPLC)やガスクロマトグラフ法(GC),キャピラリー電気泳動(CE)法が報告されている5,6).メタンフェタミンは紫外部に特徴的な吸収をもたないため,紫外部検出器での検出は質量分析計に比べて感度が劣る.犯罪が絡んだ事案では,質量分析計での検出が不可欠となる.GC分析の場合,注入口やカラムへの吸着を抑える目的でトリフルオロアセチル(TFA)誘導体化が汎用されている.しかし,溶剤留去に手間を要したり,TFA誘導体が気散するなど前処理に注意が必要である7).本稿では塩化ギ酸プロピルを使用した簡便な誘導体化GC法8)と,多くの救命救急センターが所有しているHPLCを利用した分析法9)の一例を示す. 
GC/MS法 
 【前処理方法】 
① 試料0.5gにホウ酸緩衝液(50mM,pH10.5)1mlと内部標準溶液(IS, Methamphetamine-d5,0.1mg/ml)5μlを加えて攪拌する. 
② 混合液をExtrelutカラム(2gを10mmφのガラスカラムに充填)に注ぎ,20分間放置する. 
③ 酢酸エチル(1%塩化ギ酸プロピル含有)1mlを加え,さらに10分間反応させる. 
④ 反応終了後,酢酸エチル3mlで溶出し,窒素気流下で溶剤を留去する. 
⑤ 残査を酢酸エチル200μlに溶解し,その1μlをGC/MSに注入して分析する. 
 【分析条件】 
装 置:HP-5890ガスクロマトグラフ/HP-5971A質量分析計(Agilent Technologies) 
カラム:HP-5MS溶融シリカキャピラリーカラム(30m×0.25mm i.d.,膜厚0.25μm,Agilent Technologies) 
オーブン温度:100℃(1min)-10℃/min-300℃(3min) 
注入口温度:250℃ 
検出器温度:280℃ 
キャリアガス:ヘリウム(0.80ml/min) 
検出質量範囲:m/z50~550 
HPLC法 
 【前処理方法】 
① 試料0.2mlに8%リン酸0.5mlと内部標準溶液(methoxyphenamine,1.0mg/ml)10μlを加えて攪拌する. 
② メタノール1mlと水1mlであらかじめ活性化したOASIS HLBカラムに試料溶液を流し込む. 
③ 5%メタノール水溶液(2%アンモニアを含む)1mlと20%メタノール溶液(2%アンモニアを含む)1mlで洗浄する. 
④ 30%メタノール水溶液(2%酢酸を含む)0.5mlで覚せい剤を溶出する. 
⑤ 溶出液10μlをHPLCに注入して分析する. 
 【分析条件】 
装 置:LC-10ADVPSystem(島津製作所) 
カラム:Discovery C18(150m×4.6mm i.d.,粒径5μm,Supelco) 
移動相:アセトニトリル一リン酸緩衝液(pH3,20mMオクタンスルホン酸を含む)[25:75,v/v] 
カラム温度:40℃ 
検出波長:200~350nm(定量波長:215nm) 
 【定量方法】 
 質量分析計を使用した定量には,重水素置換体を内部標準物質として使用することが望ましいが,検査試料中に含まれていない化合物を使用することも可能である.詳細は文献を参照のこと.定量は,各薬物のピーク面積値と内部標準物質の面積値の比のもとに,あらかじめ作成しておいた検量線より算出する. 
 【分析上の注意】 
① 覚せい剤分析は,使用する器具や機器,試薬の汚染に十分配慮する必要がある. 
② 塩化ギ酸プロピルなどの有害物質の扱いはドラフト内で行うなどの換気に十分注意し,分析者の安全を守る必要がある. 
③ 覚せい剤の分析は,覚せい剤研究者免許が必要である. 
④ 風邪薬や麻黄製剤服用者の尿をTriageで検査するとAMP陽性となることがある.AMP陽性となれば必ず覚せい剤を使用しているとは限らないので,機器分析による確認が必要である. 

 4. 症   例 8) 
 34歳,男性.某日午前2時ごろ,上半身裸の男が暴れていると110番通報があった.警察官が現場に到着後,救急車を要請し,午前3時10分に近医に搬送された.搬送時にはアルコールのにおいはなかった.搬入時の体温は42℃であった.治療の甲斐もなく,午前5時35分に死亡した. 
 死因解明のため解剖が行われ,Triage検査により覚せい剤陽性となった.GC/MSによる覚せい剤分析の結果,解剖時に採取した尿および血液よりメタンフェタミンとアンフェタミンが検出された.血液中メタンフェタミンとアンフェタミン濃度は2.53μg/g(1.7μmol/100g)と0.10μg/g(0.08μmol/100g)であった(図3). 

 5. 血中濃度と重症度 
 血中濃度については,Winek10)やSchulz11)が総説としてまとめている.メタンフェタミン中毒の推定をするうえで,検査試料としては血液が最適であるとの報告12)もあり,血中濃度が3μmol/100g以上で致死レベル,2μmol/100g以上で重症レベル,0.3~0.4μmol/100gで中程度レベル,0.2μmol/100g以下で軽症レベルとされている. 

 6. 体内動態 
 口腔粘膜や消化管からの吸収は早く,経口投与後30分~1時間で症状が現れる. 
 メタンフェタミンは中枢神経系を刺激するとともに,神経終末でのカテコラミンの放出を促進,再取込みを阻害することにより交感神経系を活性化する.メタンフェタミンは,生体に吸収されると肝臓のMAO(モノアミンオキシダーゼ)などの酵素によって代謝され,アンフェタミンやヒドロキシメタンフェタミン,p-ヒドロキシアンフェタミンとなって排泄される.メタンフェタミンは未変化体のまま排泄されることが多い.また,覚せい剤の尿排泄はpHに左右され,酸性尿に多く排泄される.血中半減期は8.5時間,尿への消失半減期はpH6.6以下のとき7~14時間で,pH6.7以上のときは18~34時間である. 

 7. 臨床所見 
 急性中枢神経症状として,多幸,多弁,不穏,痙攣,昏睡などがある.その他中毒症状として,発汗,振戦,筋肉の痙縮,頻脈,高血圧,急性心筋虚血などがある.痙攣や筋肉の易刺激によって高体温となり,脳障害や横紋筋融解,ミオグロビンによる腎不全によって死にいたることもある.慢性症状として,幻視,幻聴,妄想などがある. 

 8. 治   療3) 
 特異的な拮抗薬はなく,各症状に対する対処療法が一般的である.胃洗浄や活性炭投与が有効とされているが,吸収が早いので速やかに対処することが重要である. 
 痙攣をはじめとする中枢神経刺激症状に対しては,ジアゼパム5~10mgを静注する.中程度の場合にはクロルプロマジンも効果がある.また,幻覚や不穏に対しては,ハロペリドール静注が効果的である. 

 文 献 
1) 薬物乱用「ダメ.ゼッタイ.」ホームページ(http://www.dapc.or.jp/data/kaku/index.htm) 
2) (財)日本中毒情報センター:2003年受信報告.中毒研究 2003;17:173-203. 
3) 内藤裕史,横手規子監訳:アンフェタミン,化学物質毒性ハンドブック-臨床編Ⅱ-.丸善,2003,pp 738- 44. 
4) 広島大学医学部法医学講座編:薬毒物の簡易検査法-呈色反応を中心として-.(株)じほう,2001,pp 93 -9. 
5) 鈴木 修,屋敷幹雄編:薬毒物分析実践ハンドブック.(株)じほう,2002,pp 151-64. 
6) Kraemer T, Maurer HH:Determination of amphetamine, methamphetamine and amphetamine-derived designer drugs or medicaments in blood. J Chromatogr B 1998;713:163-87. 
7) 寺田 賢,吉村三郎,山本俊憲,他:覚醒剤の微量分析について,法中毒学ニュース 1986;4:74-5. 
8) Nishida M, Namera A, Yashiki M, et al:On-column derivatization for determination of amphetamine and methamphetamine in human blood by gas chromatography-mass spectromatry. Forensic Sci Int 2002;125: 156-62. 
9) Namera A, Yashiki M, Nishida M, et al:Simple and rapid analysis of amphetamines and ephedrines in urine by high-performance liquid chromatography. Jpn J Forensic Toxicol 2003;21:227-34. 
10) Winek CL, Wahba WW, Winek Jr CL, et al:Drug and chemical blood-level data 2001. Forensic Sci Int 2001;122:107-23. 
11) Schulz M, Schmoldt A:Therapeutic and toxic blood concentrations of more than 800 drugs and other xenobiotics Pharmazie 2003;58:447-74. 
12) 永田武明:体組織中覚せい剤検査値の意味づけ.日本法医学雑誌 1983;37:513-7.

この記事についての問い合わせ先:広島大学大学院法医学 奈女良 昭 
E-mailアドレス namera@hiroshima-u.ac.jp

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